「おい。」

呼ばれて振り返れば、
舞い散る桜の中
卒業証書を片手に、
偉そうに立つ君がいた。






勝手な約束






はるうらら。
卒業式。

君との別れ。







武蔵森は、高等部がある。
エスカレーター式なので普通ならばそのまま進学するけれど、私は今日で、お別れ。高校は、武蔵森とはこれっぽっちも関係のない学校である。

親の転勤と言うだけならば、寮があるのでたいした問題ではない。
ただ、今回は私の希望なのだ。違う学校で、学びたいと思ったことを学ぶのだ。他の誰でもない自分のために、他の誰でもない自分が決めたこと。
だから、だから、お別れ。

毎日を笑い合いながら過した友達とも、
お説教しながらも、優しかった先生とも、
慣れ親しんだ教室や校舎とも。


そして、君とも。






周りよりも一段と騒がしい集団。
女子からの視線も加えて。
サッカー部。
君のいる、サッカー部。
三上 亮。
ひそかに、好きな、人。
今まで以上に、遠くからしか見つめられなくなる。
(悲劇のヒロインを気取っても。それはただ、勇気がなかった小心者。)



桜の咲く、卒業式。今年は桜が咲いた。今年はあったかいからね、と母は笑った。あたしの日ごろの行いがいいからよといったら、父はなんともいえない顔で笑った。

武蔵森の卒業式。
本来なら涙なんて全然ないんだけれど、
私の周りは友達が泣いてくれている。
ちょっとだけ、嬉しかった。
ちょっとだけ、行きたくないと思ってしまった。


君を探し、君を見つけ。
ちょっとだけ、嬉しかった。
ちょっとだけ、寂しかった。







「おい、。」

急に騒がしくなった周囲。なんとなくセンチメンタルな私に声をかけた、三上亮。

まったく、何の用なんだろう。
お別れの言葉でもくれるのかい。寂しくなるじゃないか。

視界の端で桜が散った。あぁ、本当に。何でこんなにも物悲しい?

さぁ、ここでお別れだ。
さらば、私の恋。
最後の最後。
最後の会話。
そう、きっとこれが最後なんだ。







コマ送り、スローモーション


君の手から私の手へ。







投げられた               ――――ボタン?






「この俺様がこんなことしてやるなんてなぁ。希少価値、高いなんてもんじゃねぇぞ。
 わかってんな?絶対もってろよ。いいな?」

お別れの言葉なんてなかった。

そして相変わらず、俺様だった。
そう、相変わらず自分勝手で
相変わらずかっこよかった。

どこぞの少女マンガか、と笑ってしまいたくなるけれど。
学ランじゃない武蔵森の制服のボタン。どこかおかしくて、違う意味の「笑う」になってしまいそうだ。
だいたい、私がずっと持っているなんて確信しているのだろうか。お気楽め。やっぱり自分勝手だよ。
(諦めなんか、きっと一生つかない。)



だけれども、だけれども。うれしいんだ、嬉しいもんなんだ。
なんて現金なやつなのだろう。自分でも呆れてしまう。
(馬鹿になったな、私も。)

何故だろうね。これだけで、頑張れそうな気がする。
(それは君がかけた魔法?)













手のひらにコロンと転がるボタン。


汝、病めるときも健やかなるときも


何度支えられてきたのだろう。
特別な甘い時間、と言うわけじゃなく。
息苦しい存在だなんてことある訳がなく。


その者を愛し続けることを誓いますか?


支えて支えられて。
お互いに、支えて、ここまで来た。











―――――誓います。















「おい、!」

「おかーさーん!」


あぁ、私を愛しい声が呼ぶ。
大切な『お守り』を、私を支えた『お守り』をしまい、階下へと続くドアを開けた。





ほら、其処にはあなたがいる。









(好きだ、好きだ、好きだ…!)


あなたがいたから今日までを生きてきた。
あなたがいるから今日から先を生きてゆける。






(writer:alice)   thank you everyone!!


【配布元様】