大きなカバンに荷物をつめて。
必要最低限のものだけをつめたそれを抱えて、何かに追い立てられているかのように、あたしは走った。
走って走って走った。

「……。」

世界に誰もいないのではないか。そう思ってしまうほど静かな街の一角で平馬が私をよぶ。その声は闇の中を歩くあたしにとって、何よりも信じられる、光。

「はぁ……、待たせちゃって、ごめん、ね、平馬。」
「いや、別にいいよ。………大丈夫なのか?」
「うん、平気。………はやくいこっか。」

別にいい、気にするな。俺も今来たから、といってくれるやさしい平馬。本当はしばらく待っていてくれたんだろうに。どうしてこんなにやさしいんだろう。
そんなやさしく温かい平馬の冷たくなっている手を握って、あたしは、あたし達は、真夜中の駅へ駆け出した。
カケオチと呼ばれる逃避行だった。

「…寒いね。もう秋も終わるからかなぁ。」
「…かもな。息も白いし。」

非現実的な行動を起こすわたし達のする、まるでいつものような日常会話。
なんだかおかしくて仕方がなかった。
何がいけない、何が悪い。誰がいけない、誰が悪い。目に熱いものが込み上げてくる。ただ一緒にいたかった。それだけなのに。



「………。」

平馬が私の手を握った。
目に熱いものが込みあがってくる。そしてそれは手を握られるのと同時に静かに頬を流れた。
私達は捨てきれないのだ。自分を取り巻く環境を、人を。すべて。
このホームに滑り込んでくる電車に乗って、終点まで行ったとしても、捨てきることなんてできないんだ。
気付きたくなんてなかったのになぁ。
十代後半の愚かな子供は何もできないのだ。何処まで行っても愚かで、そう、自分達だけで生きていくなんてこと、できないのだ。

頬を流れるそれは止まらない。
平馬の頬にもそれは流れていた。
誰もいないホーム、手を繋いで、二人きりで。

何がいけない、何が悪い。誰がいけない、誰が悪い。
ただただ一緒にいたかった。それだけなのに。

君となら行き先なんかいらなかった

ただ、二人でいられたのなら、




2006.11.01   alice
お題 by OperaAlice