ドリーム小説

「お前には、奥州に居られる伊達政宗殿の側室となってもらう。かまわないな?」

『家』の存続、『家』同士の繋がりを重んじるこの時世、それは疑問の形を持っていたけれど、否定を消して赦さない声音だった。絶対の、命令。
私は何も言わないまま、言えないまま、父上が退室するのにあわせて指をつき礼をした。躾けられたとおりに長年行ってきた行為は、考える必要もなくからだが覚えている。それは、今思考が働いていない私にとってある意味救いだった。しかしそれは、この状況に置かれた私にとって、なによりも重い枷と同義だった。

告げられた言葉の重みは、分かっているつもりだ。私は鎖になるのだ。家と伊達家の。別に伊達家ではなくともいつかどこかの家へと嫁ぎ、同じことをしていたのだろう。そう、ただ相手が違うだけ。

でもそれでも驚くときには驚くし、悲しいときは悲しいと感じてしまうものなのだ。
何故、どうして、
思考がまったく働いていない。人間の驚きや悲しみといった感情は、本当に一線を越えるとどうにもならなく働かなくなってしまうらしい。こんな形で体感するなんて、思いもよらなかったが。
涙すら流れず、思考は真っ白。私は、ただ、焦点すらあっていない虚ろな目でどこかを見つめていた。


やはり私がなんと言おうと決定事項だったのであろう。次の日から一週間もせずにたいていの用意はできていた。親族から、女中から、たくさんの人からかけられた言葉に、私はどうやって返事を返していた?





そしてその日は来た。


「Hey、お前が今度側室にになる、家のやつだな?What's your name?」

「……わっと?」

「Oh.sorry.名前は何だ?」

「……と申します。」

右目を覆う眼帯。しかし片目だけでも十分なほどに、その眼光は鋭かった。若くして奥州を束ねる、伊達政宗。この人は天下人となられるのだろうか。…分からないが、存在感はとても大きく感じられた。



私を送り出したときの父の顔は、私を送り出したときの母の顔は、私を送り出したときの親族の顔は、私を送り出した女中たちの顔は、どんな表情だっただろうか。
この人の、政宗様の表情は何を表しているのだろう。
…もう何も考えられない。
…もう何も考えたくない。



(本音なんて聞きたくない)


絶望も希望も、何もかももうたくさん。目を塞いで耳を塞いで、




2006.11.11    alice
【配布元様】