ちゃんの好きな人って、だぁれ?」

その子はとっても素敵な笑顔で私に話しかけてくれました。いつもいつも、みんなの輪の真ん中で笑っているとても可愛らしい子です。そんな彼女が私に離しかけてくれるだなんて夢だと思って頬をつねってみました。だけど、私の神経はちゃんと痛みを伝えてきます。夢ではありません。そうと分かってしまえば私の心臓はどきどきと音を立ててなり始めます。誰かとおしゃべりをするなんて私にはそうたくさん経験したことではないからです。所詮、私は「クラスの中の地味な女の子」という程度の人間です。だから私は話したのです。スー、ハーと。軽く深呼吸をして。嬉しくて嬉しくて仕方がなかったのです。誰かが私のことを気にしてくれるなんてこんなに嬉しいことはないと思うのです。このとききっと私は誰よりも幸せだったのだと思います。

一生懸命に話しました。私の好きな彼のことを。クラス、名前、どんな部活に所属しているのか、どんなことが好きらしいのか、どんなことで素敵な笑顔を見せてくれるのか。
その彼のことを一生懸命はなしている間、わたしは自分で自分のことをストーカーのようだと思いました。そうと言われても仕方のないことなのかもしれないなんて思いつつも、私の口は勝手に動きます。一生懸命に彼のことをしゃべり続けます。それだけ、遠くから見つめてきました。それだけ、大好きでした。

彼女はそれを聞くと私にまた微笑みかけてきました。「彼、とっても素敵な人なのね。」それはそれは綺麗な微笑みでした。綺麗過ぎて、少し怖いと思ってしまった私がいて、その思いはとても失礼だと思って慌てて頭の中から排除しました。「はい、とっても素敵な方です。」私は答えました。それからふたつみっつ言葉を交わして私と彼女は別れました。「バイバイ」「さようなら」夕焼け空が真っ赤でした。血を零したように真っ赤でした。でも、久しぶりに誰かと、しかも相手はあの素敵なあの子で、そんな子と話を出来た私は幸せで幸せで、そんな怖いくらいの夕焼けを気にも留めずに帰っていきました。




一週間ほどしたあと、私は彼女と目が合いました。あの日あの後から、また彼女とおしゃべりする機会はなかったけれど、目が合うというそれが私には嬉しくて嬉しくて仕方なくて、また笑顔になります。彼女に向かって微笑むのです。もっとも彼女ほど可愛らしい笑顔ではないのですが、それでも彼女も私に向かって微笑んでくれました。また、あの怖いという思いを抱かせる笑顔でした。この前の笑顔よりもとてもとてもきれいで、この前よりももっともっと怖いものでした。

すると向こうから彼が、私の大好きなあの彼がやって来て彼女に話しかけるのです。私の大好きな笑顔を彼女に向けて、彼女に話しかけるのです。とてもうらやましいと思いました。すこし、悲しくなりました。その後彼と彼女は連れ立って向こうへ歩いていきます。その最中、彼女が一度だけこっちを向いて微笑みました。


「  バ カ な 子 だ ね 。  」


今でも目にこびりついて離れません。いままで私に微笑んでくれた顔の中でもとびきり美しいものでした。とびきり怖いものでした。

正直者




2009.01.25 alice