屋上に光を見た。
眩しい、平々凡々の私には、決して手が届かないような。
そう、まるで太陽。




太陽





初夏。
きつくなってきた日差し。
変化なんて、そんなものくらいしかなくて。
退屈な日常。
生徒にとっては、どこか外国や異世界や宇宙人の呪文にしか聞こえない、先生の授業。



其れは私にとっても同じこと。
先生の呪文のような声は、私を眠りの世界に誘おうとする。
(…眠い………)
どんどん下がってくる瞼。
視界もぼやけてくる。
しかし、眠ってしまっては「授業態度が悪い」と
評価を下げられてしまう。




ばれないように首をあちこちに振ってみたり、
頬をつねってみたり。

眠らないように、眠らないように。




でも、そうしているうちに授業は進んで、
結局よく分からなくなってしまった。
そして諦めたときには、もう既に眠気なんて跡形もなく。
あんなに努力したけれど、それもすべてどうでもよくなってしまって。
そのまま寝てしまっていればよかった、
なんて思いながら、窓の外を眺めた。

(……損したぁ…。)
溜息と共に、声にならない、声に出来ない思いを吐き出した。









「――――。」

暑苦しい教室に風を取り入れるため、半分ほど開けられた窓から、
体育でもしているのだろうか。
誰かの掛け声が聞こえる。






ふと視界に、金色が見えた。







あれは――佐藤成樹、くん。(だってあんな綺麗な色、彼以外に、いない。)






いろんな人から(特に女子)人気があって。
なんか、私とは違うなー、とか。
そんなどうでもいいようなことを考えながら。
気になるな、とか。
そういうのもあるけど。


その輝く金色のせいだろうか。
自由奔放、そんな生き方のせいだろうか。



視線だけで追いかけ。
『距離』を感じ。
勝手に悲しむ。



ただ、「悲しむ」とは少し違う気がするけど。
今の私にには、その表現しかない。












「あんさん、授業中、ずーっとこっち見とったやろ?」


振り返れば輝く『金』
屋上で見かけたその人、――佐藤成樹君がいた。


西から差し込む、真っ赤な光で
その金色の髪はいっそう輝いていた。
(何故だか、泣きたくなってしまうほどに、綺麗、だった。)



一歩一歩、こちらに近づいてくる。
私は動くこともなくただ佐藤君を見ていた。



どうしてここに、とか。
何で気付いたんだろう、とか。
いろいろのことが頭の中で廻っているのに。
口から出た言葉は、何故だかとても冷静なものだった。


「あー、うん。なんか見えてね。佐藤君の金髪が、すごく光ってたから。」


教室も何もかも。夕日に染まって真っ赤だ。
どこかおかしくなったのだろうか。

手を伸ばし触れた金の髪。
振り払われると思った手は、そんなこともなく。佐藤君は唯

「あんさん、おもろいなぁ。」

と。
唯、カラカラと笑った。
私の口はどんどん廻って


「佐藤君も、十分個性的だと思うよ。」

「…それが売りやからなぁ。ところで…佐藤君なんて呼ばんといて。シゲって呼んだってや。」


「ねぇ、シゲ。……私を連れて行って?」

赤い夕日が、赤い光が、きっと私を狂わせた。
だってほら。自分でも驚くほどすんなりと出た本音。



「……やっぱりは面白いなぁ。」


数秒驚いて、また笑った。
そして抱きしめた。抱きしめられた。




それから、私達よく2人でいるようになって。
別に家出をしたりとか、そういうことではないけれど。
感覚的に、シゲは私をどこかから連れ出してくれた。





ほら、やっぱり君は太陽。
私の太陽。


(きっとまだ、完全に届いているわけじゃないけど。)






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相互リンクしていただいた卯月様へ。
遅くなってしまい申し訳ありませんでした。
作品もあまりご期待には沿えていないかと…
本当にすみません。

これからもどうぞよろしくお願いします!
2006/05/17   alice