冷たい花〜番外編〜(これだけでも読めます)
古いアルバムを、見つけた。
その笑顔は大人びて、
それでも変わっていなかった。
「うっわぁ・・・懐かしー・・・」
ずっしりと、大した重量感を与えているこの分厚い写真達。
あたしの歴史がぎっしりと詰まっているんだから、重たいのも頷ける。
小さい頃から全部・・・ってわけじゃないけど、それでもそれなりの年数は収められていて。
自分じゃあ覚えていないような出来事まできっちりと保存されていた。
「わー・・・」
写真の横には簡単な説明書きがある。
今は亡き、お母さんの字だ。
懐かしくてなにかが込み上げてきて、ちょっとだけ視界が歪んだ。
「『狭いスキマに入り、でられなくなって泣いた』・・・かぁ」
なんだか、遠い記憶にあるお母さんの笑い声が聞こえたような、気がした。
『大きいこいのぼり、たくさんだね。は女の子だけど』
『スイカは遊び道具じゃないよー。ボールと間違えたのかな』
『は私の自慢の箱入り娘』
じわり、と、何かが込み上げてくる、言葉。お母さんの、字。
嬉しくて、嬉しくて、ずっと見ていたかった。
「次は・・・あれ?」
『お隣の翼くんと初対面!翼くんはよりも女の子みたい』
「つば、さ・・・」
右下の日付の印刷された写真。
今よりも十年とちょっと前の話。
可愛らしい服を着て、あたしと手を繋いで、にっこりと笑っている翼。
それは今も時々浮かべる、あの笑顔と一緒で。
「翼だぁ・・・」
何だか妙に嬉しくなった。
「えへへ・・・ツーショット、かぁ・・・」
「なに一人で不気味に笑ってんの?おまけに鍵だって閉めてないしさ、ちょっとって言うか、かなり不用心じゃない?」
「つばさを見てたの」
「げ。何見てるかと思ったら変なもん引っ張り出してきてるし。しかもそれ俺写ってんじゃん」
「そうだよ。可愛いんだよ」
「そんなの見てないでさっさと夕飯食べに来たら?」
「うん」
突然の翼の声に驚くこともなく、開いていたアルバムをぱたんと閉じる。
ちょっとだけ、名残惜しかったけど、今見なかったらなくなるってわけじゃないし。
また後でゆっくり見る時間はある。
だから今は翼のお家でご飯をご馳走になろう。
「ね、翼。また今度、遊びに行って、そしたら写真、いっぱい撮ろうね」
あたし使い捨てカメラでもデジカメでも持ってくから。
階段を下りながら、手を繋いで、ゆっくりと歩いている時に言う。
翼は一瞬きょとんとして、ふって、笑った。
それはさっきのアルバムの中の小さい翼とどこか似ている笑顔で。
「普通の写真ならね」
「うん!」
例えば記憶は薄れるとしても、記録までは薄れないから。
いつか大人になって、今の日常を忘れそうになったら、撮った写真を見て思い出せるように。
あんなに眩しい日を過ごしていて、あんなに毎日が輝いてて、翼と一緒だったこと。
いつかの未来に写真を見る時、隣に翼がいればいいと思う。
その時に、今と似ていて違う笑顔を、浮かべてくれていれば、きっと思えるだろう。
その笑顔は大人びて、それでも変わっていなかった。
モノクロームのケイ様から。
17600hitで奪っ…頂きました。
ケイ様のサイトで連載されていたものの番外編です。